7Aug
「シンパシーとエンパシーの違いって」に続いて、この回はお二人の熱い思いにとても心が打たれ、残しておきたく、それぞれの回に分けています。
ブレイディさんが福岡とイギリスを行ったり来たりして、もう今度は帰ってこないという気概でイギリスに渡っちゃおうと思ったきっかけ「(私生活で)いろいろあるじゃないですか、20代って、色恋沙汰とか」のところで鴻上さんの「聞きませんけど」という合いの手にクスリと笑いがこみ上げた。その一瞬の一言に鴻上さんのユーモアあふれるお人柄が滲み出ていた。
番組の冒頭で、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)の一節が紹介されていた。ブレイディさんの息子さんの言葉。「シンパシーとエンパシーの違いって」でもお伝えしましたが、この言葉にとても心打たれました。
(中略)
世界中で起きているいろんな混乱を僕らが乗り越えていくには、自分とは違う立場の人や、自分と違う意見を持つ人々の気持ちを想像してみることが大事なんだって。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(新潮社)
これは、人種や文化の違いもですが、同じ日本人同士でも、親子、兄弟姉妹、親戚や友人、実は親しいと思っている間柄でも、とても大切なことではないかと思うし、こんなに適切に表せている言葉はないと思えました。
「日本人はあまりにも社会への信頼が足りないのではないか」
人の、もしかしたらその後の生死にかかわるかも知れないことを、そこにいる周りの人がどう思うかを慮って、ある一人が判断し対応しないといけなかったことに対しての息子さんの言葉。
そんな中で、鴻上さんが番組で口にされていたこと。
僕は ブレイディさんの本が あんだけ ちゃんと売れているのは すごい希望だなと思うんですよ。みんながやっぱり多様性に対して どうしたって絶対多様性に進む。これ止められないと。止められない時にどうやって関係を繋いでいったらいいんだろうというのはすごくみんな探していってるんだと思う。
「SWITCHインタビュー達人達(たち)」
だんだん窮屈になって、苦しくなっていかないように、日本がそんな様な社会じゃないようにあってほしいと願っているから、本当に、この本が多くの人の手に取られているということは、希望が持てるのではないかと、この対談を観てそう思えた。
ブレイディさんは保育士をされていたこともあります。その時の経験を本にした「子どもたちの階級闘争」。
実は自分の子どもが生まれるまでは子どもって嫌いだったというブレイディさん。。でも、生まれて、育ててみると「子どもって環境次第なんですよ。自分でなんでもできるようになった気になっているけど、本当に教えてくれないと、誰かが見てくれないとトイレだってできない」このことに、大人が子どもに果たす影響力がすごくこれは大きいなと、こういうことは他にないんじゃないのかな、と思ったそう。保育士になって、こんなに面白いことはない、と。
【保育にかかわることは、社会を変えることかも知れない】
ブレイディさんが働いていらっしゃったところは、すごく貧困地域にあって、いわゆるショーシャルワーカーなどが介入している、ちょっと問題のある家庭の子どももたくさんきているような無料の託児所。そういうところで働いていくうちに、保育士になってある意味未来の子どもたちを育てていることはすごい小さな範囲かもしれないけど社会を変えることかも知れないことだよねと思ったという。(ブレイディさんの師匠がそういう考え方の人だったそうです。師匠さんって後で番組中に出て来ますがセックス・ピストルズとPILにハマって、ジョン・ライドンさん命でファンサイトまで運営されていたそうで「人生の師匠」と思ってるんですけどと話されていました)。わりとその地域のいわゆる英国人の貧しい方々が主に来られていたが、だんだんと移民の方々が増えていき、何かそこにあつれきが生じてきて、結局、移民の方が多くなったりして白人の方が来なくなったりして、だんだんと顔ぶれが変わっていったのだそう。保育の現場で、貧困問題や人種差別などイギリスの分断社会、子どもたちの差別意識が垣間見られたんだそう。
インクルージョン(社会的包摂)とダイバーシティ(多様性)
イギリスでは労働党が政権を持っていたときは、保育の二本柱がインクルージョン(社会的包摂)とダイバーシティ(多様性)で、多様性推進を掲げていて、その方面の教育に力が注がれていた。
子供が遊ぶ場所のセッティングに、例えば、ドールハウスにお人形を並べておくのにも、キッチンの風景が、「お父さんとお母さん、そして子ども」といった一般的に想像できる「当たり前と考えられてきた場面」ではなく、そうじゃない家庭もあるからと、お父さんとお父さんにエプロンをさせて立たせておくとか、かならず、メガネの人、車椅子の人などみんな違うようにしておこうとか、そういうところまでに気を使っていたそうです。
これは、日本の保育・教育現場ではどうなっているのだろうか?
もしかしたら、夫婦別姓で揉める日本では大問題になるかも知れないと語られていました。
4歳になる幼稚園に通っている私の姪も、もう既に「こういうもの」という固定観念が出来つつあります。例えば最近は色についても「男だから青でしょう」とか。「えっ?もうそんなことを言うの?」と驚きました。どうやってそういうふうに根付いたんだろう?もしかしたら幼稚園で使っているものが男の子と女の子で色分けされたりしているからかも知れません。でも、他の幼稚園や保育園では、そう言うところも氣を行き届かせているところもあるかも知れません。
実際、保育士の試験では「教育原理」「社会福祉」などの科目では「インクルージョン」と出てきますし、適切な対応を選択する例として、大きなものを噛めない子どもには給食の時にどう対応するか「小学生になるんだから慣れるのが大切!」と言うか「小さく切ってあげる」のか。大きな音が苦手な子どもにどう対応するかなどの問題が出るので大分「個」に対応した教育・育て方に世の中が変わって来て、一人一人が尊重されるようにはなって来ていると感じました。日本ではまだまだ同じ日本人の割合が多いとは言え、そう言った個人個人や家庭によって、色々違ってはいるのですよね。
ブレイディさんの著書「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」のなかで、新しい制服が買えない貧困家庭でボロボロの服を着ている息子さんの友人がいて、息子さんが「直接、リサイクルして作ったきれいな制服を渡したら友達のプライドを傷つけるかも知れない、どうやったら、友達を傷つけないように、どうするか」の場面。「そこは、大事な生きる知恵というか、みんなで考えることだとすごい思ったんですよね」と熱く語られていた鴻上さん。
「でも、どうして僕にくれるの?」
(中略)
「友だちだから。
君は僕の友だちだからだよ」
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」
ブレイディさんは実際この時この場面に遭遇して、「どうしよう、どうしよう。これは、身内意識なんじゃないか」とか、「その子以外にも、たくさん学校にはそういう(貧しい)子がいるのに、内と外の意識になっていて、これはこれで間違っているのではないか、とすごく考えて(大人ってすごい考えすぎる)あげないほうがいいんじゃないか」とそこも考えて「何かをするよりはしない方向に」考えていたら、息子さんが「君は僕の友だちだから」と答えていて、「もう、これが基本じゃないか」と。
ここで、シンパシーとエンパシーのことも出てきますが、本当に身近なところから、できることを、声をかけてみること、様子を氣にかけることこと、そう言ったことの積み重ねと広がりが、少しでも希望の持てる世の中になっていくのではないんだろうか。
【多様性と分断化・お金で体にも差が出てくるもの?!】
多様化社会に向けた教育がなされているイギリスでは、しかし、例えば私立の学校と公立の学校とでは、つまり親の持っている資本の格差によって、子どもたちがもう同じ土俵に立てないくらいの差が出ているほどに、分断の壁があるという。昔は、勉強が出来なくてもスポーツが出来た、とかあったのが、その子どもの資質がどれだけ伸びるかが、もう、親の資本(所得格差)によって露骨に差が出てしまっているというのです。鴻上さんもイギリスに留学された経験から、「お金でこんなにも、学力じゃなくて、体にも出るんだ!」と話されていました。イギリスはピンキリの世界だと。でも、それを正直に見せているから闘いようもあるとブレイディさんが答えてらっしゃったのが、心強く感じられた。
ブレイディさんは戦略的ではなく、結構成り行きでやっているところもあるそうで、そう言ったところも、受け入れられやすいのではないかと感じた。
マクロの問題をミクロから見上げている本
普通の生活と、政治とか社会とかをどうしても切り離して考えがちじゃないですか?
でも 普通の生活の中にこそ その影響が出てきてる。普通の生活の中から、ミクロからマクロを見上げることができるんだよっていうのは ずっと意識して書いていることですね。
ミクロで書くからこそ 普通に生活している人が読んでもわかる
政治のことを考えるようになる
「SWITCHインタビュー達人達(たち)」
ブレイディさんも鴻上さんも、分かりやすくて実際の生活に落とし込められていて、大好きになった回だった。
日本のシュークリームが美味しいと「神楽坂シュークリーム」をブレイクタイムで日本のスイーツの美味しさを語られていました。シュークリームとプリンは食べたくなるのだそう。
鴻上「『コミュニケーションがうまい』っていうのは【物事がもめたときになんとかできる能力】があるんです」
ブレイディ「そうなんです。それが【対応力】なんですよね。だから、多様性があるとすごく揉めるんだけど、それを どうやって折り合いをつけてやっていくかっていう力っていうのは 何か… 自分たちだけで通用するって言っても駄目なんですよ」
「SWITCHインタビュー達人達(たち)」
ここの部分にお二人の深いどんな立場の人にも向けられている思い、それを「愛」と言うのでしょうか、とても伝わってくるものがありました。お二人の思いがこちらの心にも本当に伝染して温かく熱くなりました。